辞める前に、聴く。――海外キーパーソン4名へのオンライン英語インタビューが、グローバル人材戦略を変えた
「なぜ優秀な人が突然辞めるのか」その答えは、退職面談では遅すぎる。在職中の本音を、外部インタビューで引き出した事例をご紹介します。
グローバルに事業を展開するIT系企業にとって、海外拠点のキーパーソンは事業の根幹を支える存在です。しかしそのキーパーソンが「なんとなく元気がない」「最近提案が減った」「会議でのコメントが減った」――そんな変化に気づいたとき、あなたの会社には確かめる手段がありますか。本記事では、海外拠点のキーパーソン4名へのオンライン英語インタビューを通じて、離職リスクと組織課題を在職中に可視化したプロジェクトをご紹介します。
「突然の退職」は、本当に突然なのか
海外拠点の優秀な人材が「突然」辞めた――そういう話を耳にするたびに、私たちは「本当に突然だったのか」と問い直すようにしています。多くの場合、退職は突然ではありません。じわじわと積み重なった小さな失望・疎外感・キャリアへの不安が、ある日限界に達したとき、それが「突然の退職」として本社に届くのです。
特にIT系のグローバル組織では、優秀な人材ほど市場価値が高く、外部からのオファーに常にさらされています。「辞めたい」と思ってから行動に移るまでの時間が短い。だからこそ、退職が決まってから話を聴くのでは遅いのです。
① すでに次のポジションが決まっており、前職との関係を悪化させたくない
② 不満の原因が上司や組織文化にある場合、直接的に言いにくい
③ 英語での退職面談では、ニュアンスや感情が表現しにくく、形式的になりがち
本当に必要なのは、退職が決まる前の対話です。在職中のキーパーソンが、外部の第三者に対して安心して語れる場があること。それが、離職リスクを早期に検知するための唯一の方法と言っても過言ではありません。
依頼の背景:「優秀な人材の流出が続いている」
今回ご相談をいただいたのは、欧米・アジアを中心に複数の海外拠点を持つIT系企業の人事・グローバル組織担当部門でした。直近の数年間で、海外拠点のキーパーソンが相次いで離職するという事態が続いており、その都度「なぜ辞めたのか」を把握しようとしても、退職後のヒアリングでは表面的な理由しか出てこない。
「辞めた後に聞いても遅い。在職中に何が起きているかを把握したい」という課題意識が、このプロジェクトの出発点でした。
退職面談では「一身上の都合」か「キャリアアップのため」という答えしか返ってこない。でも本当の理由が何だったのか、ずっとわからないままでいた。在職中の声を外から聴いてもらえるなら、試してみたいと思った。
――ご担当者(グローバル人事部門)のお言葉より
プロジェクト概要
| 対象者 | 海外拠点の責任者およびキーパーソン 計4名(欧州・アジア各拠点) |
|---|---|
| 形式 | オンラインインタビュー(1名あたり約60分・個別実施) |
| 言語 | 英語で実施 → 日本語インサイトレポートとして整理・提出 |
| 期間 | 約2週間(設計〜実施〜分析・報告まで) |
| 主な目的 | 離職リスクの早期検知・エンゲージメント実態把握・組織課題の言語化 |
対象の4名は、いずれも会社にとって失いたくないキーパーソンとして、人事側が認識していた人物です。表面上は業務を問題なくこなしているが、最近どこか変化を感じる――そういった「勘」を持った人材を中心に選定しました。
インタビュー設計:「エンゲージメント」ではなく「体験」を聴く
よくあるエンゲージメントサーベイとこのインタビューが最も異なる点は、「スコアではなく体験を聴く」というアプローチにあります。
「仕事への満足度は10点満点で何点ですか」という問いに答えるとき、人は自分の状態を「評価」します。しかし「最近、仕事をしていて嬉しかった瞬間はいつですか」と聞かれたとき、人は自分の「体験」を語り始めます。この違いが、本音にたどり着けるかどうかを大きく左右します。
今回のインタビューで重点的に探った3つのテーマ
- 「貢献できている」という実感があるか:自分の仕事が会社全体の方向性とつながっていると感じているか。努力が認められているか。成長の機会があると感じているか。エンゲージメントの根幹にある「貢献実感」を丁寧に掘り下げました。
- 本社との関係に、ストレスや断絶を感じているか:意思決定への関与感・情報共有の質・コミュニケーションの頻度と深さ。「本社のことが信頼できるか」という感覚を、具体的なエピソードから探りました。
- 今後のキャリアをどう描いているか:この会社でのキャリアパスが見えているか。自分の将来像と現在のポジションの間に、埋められない溝を感じていないか。離職の意思決定に最も近い部分を、最後にそっと聴きました。
社内のマネージャーや人事担当者が同じ質問をしても、同じ答えは返ってきません。評価・昇給・人間関係への影響を心配するため、回答は自然と「無難な方向」に引っ張られます。外部の第三者が、「あなたの声は直接日本の意思決定者に届きます」という文脈で介在するとき、はじめて在職中の本音が語られます。
インタビューの現場:60分でどこまで行けるか
1名あたり約60分というインタビュー時間は、表面的な会話から本音の領域に入るためにギリギリ必要な時間です。最初の15〜20分は、関係構築と場の温め。中盤の30分で核心に入り、最後の10分で「言い残したこと」を引き出す。この流れを意識しながら、固定の質問項目に縛られすぎず、回答の流れに合わせて柔軟に深掘りを重ねました。
英語でのインタビューでは、言語的な正確さだけでなく、沈黙の使い方・相槌のタイミング・質問の柔らかさが信頼感を生みます。「答えなければならない」ではなく「話したい」と思えるかどうか。インタビュアーの技術と人間性が、情報の質を決めます。
こんなに自分の気持ちを整理して話す機会がなかった。話しながら、自分が何を感じていたかに気づいた。
社内の人には言えないことも、第三者の方だから率直に話せた。本社にこの声が届くなら、伝える意味があると思った。
インタビューを受けた側からこうした声が届くこと自体が、このアプローチの価値を示しています。「話す場があること」が、すでにエンゲージメントの回復に寄与することがあります。
見えてきたもの:4名から浮かび上がった共通パターン
守秘義務のため、個別の発言内容や対象者の詳細はお伝えできません。しかしこのプロジェクトを通じて、グローバルIT組織に共通する構造的な課題がいくつか浮かび上がりました。
① 「見えていない」という孤立感
本社からの情報発信は定期的に行われていた一方で、現地側の工夫・成果・苦労が本社に届いていないという感覚が複数名から語られました。「頑張っているのに、見てもらえていない気がする」という感覚は、エンゲージメント低下の最も初期に現れるサインです。認知されることへの欲求が満たされないとき、人は静かに離れていきます。
② 意思決定の「遠さ」
現地の判断でスピーディに動けない場面が多く、本社の承認プロセスに対して閉塞感を感じているケースがありました。「自分が責任者なのに、本当の意味で責任を持てていない」という葛藤は、優秀な人材ほど強く感じる傾向があります。権限の委譲と信頼の度合いが、キーパーソンの定着に直結していることが改めて確認されました。
③ キャリアの「天井」感
現在のポジションの先が見えないという声が、複数の対象者から上がりました。海外拠点においては、キャリアパスが本社ほど可視化されていないことが多く、「このまま続けていても成長できるのか」という不安が蓄積していました。これは離職意向と最も強く相関するファクターのひとつです。
- 成果の「認知」と「承認」が不足しており、貢献実感が薄れていた
- 権限の委譲が不十分で、責任者としての自律性が制限されていた
- キャリアパスの不透明さが、在職継続への動機を弱めていた
- インタビュー自体が「本社が自分の声を聴こうとしている」サインとなり、エンゲージメントの改善に寄与した
英語→日本語レポートの精度が、経営判断の質を決める
英語で行われたインタビューの内容を、日本語を母語とする経営層・人事担当者が経営判断に使える形で届けること。これが、K'sインターナショナルの役割の核心です。
英語と日本語は、単語と単語を対応させるだけでは伝わらない言語です。特に感情・ニュアンス・「言わなかったこと」を含む文脈は、文字通りの翻訳では消えてしまいます。今回のレポートでは、発言そのものの記録に加え、「この発言の背景にある感情」「この沈黙が意味すること」「4名を横断したときに浮かぶ共通のパターン」を、日本語で読み手が直感的に理解できる形で構造化しました。
K'sインターナショナルのインタビュー支援では、英語でのインタビュー実施から日本語レポートの作成まで、同じチームが一気通貫で担当します。インタビューを「実施する人」と「まとめる人」が分かれると、現場で感じた空気感・トーンの変化・言葉の裏側が、レポートから抜け落ちてしまいます。体験を持った人間が言葉にするからこそ、精度が保たれます。
まとめ:「辞める前に聴く」を、仕組みにする
グローバル人材の流出は、業績・組織・顧客関係に直結するリスクです。しかしそのリスクは、適切なタイミングで適切な形で「聴く」ことができれば、多くの場合事前に察知できます。
オンラインインタビューという形式は、移動コスト・日程調整の負担を最小化しながら、キーパーソンの本音に近づける現実的な手段です。英語での実施と日本語でのレポーティングを組み合わせることで、本社の意思決定者が直接活用できる情報として届けることができます。
- 海外のキーパーソンが最近どことなく変わった気がしている
- 過去に優秀な人材を突然失い、原因がわからなかった経験がある
- エンゲージメントサーベイのスコアと、現場の実感が合っていない
- 英語での会話では本音が出にくいと感じている
- グローバル人材のリテンション戦略を見直したい
ひとつでも心当たりがあれば、ぜひ一度ご相談ください。「どんな人材に、どんな形でアプローチするか」という設計から、一緒に考えます。
グローバル人材インタビュー支援のご相談はこちら
「自社のキーパーソンに使えるか確認したい」「どんな情報が得られるか知りたい」
まずはお気軽にご連絡ください。担当コンサルタントが丁寧にヒアリングし、最適な設計をご提案します。

