「直接やり取りした方が早い」——それでも、間にコーディネーターが入る理由があります。小さな認識のずれが当日を左右する、通訳現場の実際をご紹介します。
「伝えた」と「伝わった」は、同じではない
お客様は、会議や商談を成功させるために通訳をご依頼されます。一方で通訳者は、正確な通訳を行うために、その場で必要となる情報を事前に把握したいと考えています。たとえば「技術説明の通訳をお願いします」というご依頼でも、通訳者は「どの製品の説明か」「参加者は技術者か営業担当者か」「質疑応答はあるのか」「関連資料はあるのか」といった、より具体的な情報を必要とします。
お客様からすれば「技術説明」の一言で十分に伝わっていると思われるかもしれません。しかし通訳者にとっては、その背景を理解することが、当日の正確な通訳につながります。逆に、通訳者の確認が「細かすぎる」と感じられることもあるかもしれませんが、その一つひとつの質問には、準備を万全にするための理由があります。お客様が伝えたい情報と、通訳者が必要とする情報は、必ずしも同じではありません。その間をつなぐことが、コーディネーターの大切な役割です。
小さな認識の違いが、当日の大きな違いになる
打ち合わせでは、「対応できます」「準備しておきます」「分かりました」といった言葉がよく使われます。一見すると問題のない会話ですが、その意味が双方で少しずれていることがあります。たとえば「資料があります」と言っても、完成版が前日に共有されるのか、概要資料のみなのかによって、通訳者の準備内容は変わります。「専門用語はそれほど多くありません」という場合でも、通訳者から見れば事前確認が必要な用語が含まれていることもあります。
通訳範囲も、認識の違いが起こりやすいポイントです。会議本編のみの予定が、開始前の打ち合わせや終了後の意見交換、移動中の会話でも通訳が必要になることがあります。こうした違いは、どちらかが間違っているのではなく、それぞれの立場から見えている範囲が異なることで起こります。だからこそ、事前に確認し、認識を合わせておくことが重要になります。
コーディネーターは、情報を「準備できる形」に整える
「海外のお客様との打ち合わせです」というご依頼であれば、参加者の構成、会議の目的、議題、進行方法、必要な通訳範囲などを確認し、通訳者が準備しやすい形に整理して共有します。通訳者から「過去の資料はありますか」「略語の一覧はありますか」「質疑応答の時間はどの程度ですか」といった質問があった場合も、その意図を確認したうえで、お客様に分かりやすい形でお伝えします。
直前に開始時間の変更や参加者の追加、議題変更が生じた場合も、影響する範囲を整理し、必要な情報を双方へ共有します。特に長時間の同時通訳では、担当時間や交代のタイミング、内容のバランスを考慮し、無理なく通訳できる体制を整えることも欠かせません。通訳者が本来の力を発揮するには、十分な準備時間と正確な情報が必要です。その環境をつくることが、コーディネーターの仕事だと考えています。
コーディネーターの仕事は、連絡をそのまま右から左へ流すことではありません。お客様の言葉を通訳者が動きやすい情報へ、通訳者の質問をお客様が答えやすい形へ——双方の「伝えたい」を「伝わる」に変える。それが、間に立つ意味だと考えています。
- 小さな認識の違いや情報不足が進行や品質に影響するため、事前の確認と情報整理を大切にしています。
- お客様と通訳者の間に立ち、必要な情報を正確に共有できる環境を整えます。
- コーディネーターは単なる連絡役ではなく、お客様が目的に集中し、通訳者が力を発揮できる現場づくりを支えます。
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